2013年6月29日土曜日
研究者の緊急共同声明
生活保護法の改悪に反対する研究者の緊急共同声明
いま国会で審議されている生活保護法改正案は、不正受給を防ぐためと称して
①生活保護申請時に資産・収入方法についての書類提出などを義務づけると共に、
②親族の扶助義務を事実上生活保護の要件としている。
これは自由で民主的な社会の基盤であるセーフティーネットとしての生活保護を脅かすものであって、私たちはけっして許すことはできない。
①については、悪名高い「水際作戦」による門前払いを合法化するものだとの批判を受けて、衆議院で「特別の事情があるときは」書類提出などを要しないと修正された。しかし、「特別の事情」を判断するのは「水際作戦」を進めてきたような行政の窓口である。政府は「運用はこれまで通り」として「門前払いにならないように各自治体に通知する」と言っているが、そうであるならば、口頭申請も可能であることを法文に明記すべきである。「特別の事情があるとき」の書類提出など免除を例外的に認めたからといって、書類提出などが原則となれば、門前払いが横行するのは目に見えている。
そもそも、このようは書類の提出は申請の後で済むことであり、裁判判例も申請は口頭でよいことを認めている。ギリギリの生活を迫られている人たちには、国連社会権規約委員会も勧告しているように、保護申請すること自体を容易にすることこそが切実に求められているのである。
また、②は衆議院においてもまったく修正されていない。親族関係は多様である。夫への通知・調査を怖れるDV被害者だけでなく、親族に「迷惑がかかる」ことから申請をためらう人は現在でも少なくない。家族・親族に厳しく「共助」を求めることは国の責任転嫁に他ならない。
さらにまた、今度の改正案は、③ジェネリック医薬品の使用義務づけ、保護受給者の生活上の責務、保護金品からの不正受給徴収金の徴収を定めている。保護受給と引き換えに生活困窮者にこのような責務を課すことは、性悪説を前提に保護受給者を貶め、その尊厳を傷つけるものである。
以上、この改正案は全体として生活保護を権利ではなく「恩恵」「施し」とし、生活困窮者に恥と屈辱感を与え、劣等者の刻印を押し、社会的に分断排除するものということができる。
生活困窮者は少数であり、常に声を上げにくい当事者である。しかし、セーフティーネットは、競争からこぼれ落ちた人々を救うためだけの制度ではない。それは自由な社会のなかで生きる人々が、様々なリスクを抱えつつも、幸福に暮らすことを安心して自由に追求できるための必須の条件である。セーフティーネットを切り縮めることは、自由で民主的な社会の基盤を掘り崩すものといわざるを得ない。これは生活困窮者だけの問題ではなく総ての人々の生存権に対する深刻な攻撃である。
しかし、衆議院は当事者である生活困窮者の意見はもとより、専門家の所見もまともに審議せず、わずか2日で法案を参議院へ送った。そこで挿入された「特別の事情」の運用なども精査されなかった。既に会期末を迎え残された審議時間はわずかであり、上に指摘した問題点を解消することは不可能である。政府はすでに、生活保護費の生活扶助をこの8月から3段階で約670億円引き下げるとしており、本法案もそれとワンセットのものと唱えられている。しかし、政府方針や予算によって国会の立法が左右されるとしたらそれは許しがたい転倒である。
参議院は拙速に走ることなく、国権の最高機関を担う一院として本法案を廃案とすることを厳に求めるものである。
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